人の成長が価値になる時代へ
生成AIの進化により、コンタクトセンターの業務は大きな転換期を迎えています。問い合わせ対応の自動化や業務効率化が進む一方で、これからのコンタクトセンターには、これまで以上に「人だからこそ生み出せる価値」が求められています。
AIが当たり前になる時代に、対応者にはどのような役割が期待されるのか、そのような人材を育成するために、教育やマネジメントはどのように変わるべきなのでしょうか。
本連載では、コンタクトセンターの運営・教育コンサルティングに長年携わり、多くの企業の人材育成を支援してきた株式会社OPERAの山尾寿々子さんにご寄稿いただきました。
AIと共存する時代におけるコンタクトセンター人材のあり方、そして教育の未来について考える全3回の連載です。
連載テーマ
- 第1回 AI時代、「人」の価値はどこにあるのか 公開済
- 第2回 「対応者」から「関係性を創るプロフェッショナル」へ 公開済
- 第3回 「教える」から「成長を支援する」へ 今回の記事
AIが担うこと、人が担うこと。そして、人の成長を支える教育とは何か。コンタクトセンターの未来を考えるヒントを、ぜひご覧ください。
「教える」から「成長を支援する」へ。経験学習×AI×伴走でつくる、新しい育成の仕組み
1. 「知っている」と「できる」の間にあるもの
商品知識や業務ルールであれば、「教える」ことができます。「この場合は、この手続きをします」「このサービスには、この条件があります」「システムは、ここへ入力します」。知識を正しく伝え、理解できたかを確認する。こうした教育は、これからも必要です。しかし、前回取り上げた質問力や文脈理解力、判断力、合意形成力などは、知識として教えただけでは身につきません。たとえば、怒っている顧客を前にしたとき、いつ説明を始めればよいのか。何を質問すればよいのか。どこまで相手の感情を受け止めるのか。いつ企業としての考えを伝えるのか。そこに万能な正解はありません。だからこそ、「座学だけでは育たない。一方的なフィードバックでは育たない。判断の振り返りで育てる」という考え方が重要になります。必要なのは、「正しい対応を知っている」状態から、「状況に合わせて考え、実践できる」状態への転換です。
2. 経験を「経験のまま」で終わらせない
判断力や対話力を育てるために重要なのが、リフレクション=振り返りです。実際に起きた応対を題材にして、「なぜ、自分はそう判断したのか」「そのとき顧客はどのような状態だったのか」「自分の言葉によって、相手の感情はどう変化したのか」「ほかにどんな選択肢があったのか」「次に同じ場面があれば、何を変えるのか」と考える。経験を経験のままにせず、そこから気づき、学び、教訓を取り出すのです。
さらに、振り返りには「対話」が重要です。自分一人で考えているだけでは、どうしても自分の視点から抜け出せません。しかし、「私はこう考えた」「自分なら違う聞き方をする」「顧客側から見ると、こう感じたかもしれない」と他者と対話することで、新しい視点が生まれます。
弊社の育成プログラムでも、単なる講義とロープレのみのスタイルではなく、映像学習と経験学習に基づくワークショップを組み合わせ、「経験→内省→概念化→試行」という循環に、対話や気づきを加えていくことを重視しています。「経験したから、成長する」のではありません。経験を振り返り、意味づけし、次の実践で再び試すからこそ、成長するのです。
3. AIは「教える人」ではなく、学習を支えるパートナーになれる
では、AI時代の育成において、AIには何を任せればよいのでしょうか。私は、教育のすべてをAIに任せる必要はないと考えています。一方、AIが得意とする学習支援があります。たとえば、業務知識の習得、理解度の確認、反復トレーニング、ロールプレイ、自分の応対を振り返るための材料を提供することです。AIロールプレイであれば、相手役を確保しなくても何度でも練習できます。一度失敗しても、時間や周囲の目を必要以上に気にせず、もう一度試すことができます。
これからの育成では、「AIを活用した学習・ロールプレイング」「常に学習・振り返りができる場」「熟練者による伴走型育成」を組み合わせることが、重要になってくると思います。ここで重要なのは、AIを「人の代わりの先生」にすることだけではありません。AIによって反復練習の機会を増やし、人は、人にしかできない対話や成長支援に、より時間を使えることです。
4. SVは「答えを教える人」から「考えることを支援する人」へ
そこで重要になるのが、SVの役割です。これまでのSVは、業務知識を教える、エラーを指摘する、正しい方法を示す、といった「指導者」としての役割が中心になりがちでした。もちろん、それも必要です。しかし、「正解のない応対」を育てるためには、それだけでは足りません。
これからのSVには、本人に考えさせる役割が求められます。たとえば応対後に、「なぜ、そこで説明を始めたのでしょうか?」「そのとき、お客様はどのような状態だったと思いますか?」「別の方法もあったとしたら、何が考えられるだろう?」「次は何を試してみましょうか」と問いかける。すぐに答えを教えるのではなく、本人の中にある考えを引き出すのです。これは、単に「教えない」ということではありません。必要な知識は教える。しかし、判断については、状況に応じて、本人が自ら考えることを支援する役割も必要になってきます。そして、その考えを整理することを支援する。つまりSVは、「正解を持つ人」から、学びを支援するコーチやファシリテーターへ役割を広げることが求められます。
5. 評価を「採点」から「成長の共通言語」へ変える
育成方法を変えるなら、評価も変える必要があります。これまでの応対品質評価では、名乗りができているか、復唱できているか、敬語は正しいか、スクリプト通りに案内できているか、といった基本行動が中心になりがちでした。もちろん、基本品質として重要です。
しかし、これから「関係性を創るプロフェッショナル」を育てるのであれば、顧客の背景を理解できたか、適切な質問ができたか、情報を整理して伝えられたか、感情を受け止められたか、顧客の判断を支援できたか、納得できる合意形成につなげられたか、といった観点も必要になります。
また評価は、単に点数をつけるだけで終わらせてはいけないと思っています。オペレーターのできていないところを指摘する、フィードバックして対応を是正することが、主な目的になっているセンターも少なくありません。しかし本来、評価項目とは、「今、何ができているのか」「次に、どの力を伸ばすのか」について本人とSVが話すための共通言語になるものだと思います。単発の評価とフィードバックだけで終わらせるのではなく、個々のスキルや特性、キャリアの段階に応じて育成プランを立て、オペレーターとSVがともに継続的な成長を目指す。そうした運用へ変えていくことが必要だと思います。つまり、「評価項目は、そのまま育成項目になり得る」ということです。
さらに、こうした仕組みはオペレーターの定着にも関係します。必要な支援が得られない、自分の役割が分からない、評価に納得できない、といった要因があるのであれば、育成や評価の仕組み自体を見直す必要があるかもしれません。
本連載はこれで最後になりますが、AI時代のコンタクトセンター教育とは、単に「AIを研修に使うこと」ではありません。人に求める役割を再定義し、その成長を支えるために、「学習する→実践する→振り返る→対話する→再び試す」という循環を、日常のセンター運営の中に組み込むことが求められます。AIには知識や反復練習を支えてもらう。人は経験を振り返り、意味を見いだす。SVはその学びに伴走する。そして評価は、できなかったことを指摘するためではなく、次の成長を見つけるために活用する。AIによって仕事の「量」が変わるだけではなく、仕事の「質」が変わる時代。だからこそ教育も、「教える仕組み」から、一人ひとりが成長し続けられる仕組みへ変えていく必要があるのではないでしょうか。
まとめ
- 判断力・対話力は座学だけでは育たず、「経験→振り返り→意味づけ→再実践」の循環が重要である。
- AIには反復学習やロールプレイを任せ、人は対話やリフレクションなど、成長を支援する役割により時間を使う。
- SV・評価・キャリアを含め、「教える仕組み」から「成長し続けられる仕組み」へ育成全体を再設計する必要がある。
執筆者紹介
株式会社OPERA 代表取締役 山尾寿々子
【プロフィール】
大手BPO事業会社にてセンター新規立上げ、センターマネージャーとして12年間、運営統括を担う。2016年株式会社OPERAを創業。 人材育成・業務支援・コンサルティングを軸に、多様な顧客現場における課題解決に従事。オペレーションと人材の両面から価値向上 を図り、組織変革の実現を目指している。